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一時雇用が前提の非正規社員や転職の可能性の高まるプロフェッショナル人材の場合、企業にとっては育成投資のインセンティブは低下する。
その結果、人材が十分に育たず、日本全体として必要な能力開発がされない恐れがある。
実際、厚生労働省「能力開発基本調査」(二〇〇五年度)によれば、非正規社員に対する「OfefeH」実施企業は一七・四%、「計画的な0T」実施企業は一八・三%にとどまっており、正社員のそれぞれ六〇・一%、四八・九%に比べて大幅に劣っている。
また、同調査によれば、能力開発責任主体の方針として、これまでは六六・八%が「企業の責任である」ないし「企業の責任であるに近い」と答え、二九・八%が「従業員個人の責任である」ないし「従業員個人の責任に近い」と答えている。
これに対し、今後は「企業の責任である」ないし「企業の責任であるに近い」が六五・九%、「従業員個人の責任である」ないし「従業員個人の責任に近い」は三一・〇%と、わずかながら能力開発責任を企業から個人へとシフトする傾向がみられる。
今後、この傾向が強まれば、企業が育成投資を消極化していく可能性が懸念される。
職業能力の二つのタイプ経営環境の激変、「ニューディール」型への労使関係のシフトを前提にすれば、雇用流動化時代の新しい人材育成システムの創造が求められているのである。
この間題を考えるには、そもそも職業能力には二つのタイプがあることを唆別して考える必要がある。
すなわち、①特定の勤め先企業に特有の仕事のノウハウや知識・社内人脈の総体であり、その企業独自の競争力の源泉になる「企業特殊的能力」、および、②いかなる企業においても特定の職種分野で高い業務成果を上げるに必要な仕事の知識やノウハウ、同業者間の人脈の総体である「職業特殊的能力」である。
このうち、日本企業の強さの源泉は主に①の「企業特殊的能力」に求められ、その典型例は自動車産業における現場熟練工の問に伝承され、不断に改善されていく組織能力である。
これはその能力の性質上、雇用の流動化が高まれば弱体化するリスクが高まる。
そのリスクを軽減するには、従来の「先輩のやり方を盗む」といった職人的な技能伝承の手法のみではなく、「達人」のノウハウや技能、さらには「心がけ」といった精神論的な面までをできるだけ分析的に明文化し、技能資格制度の形で体系化すること等により、これを効率的に伝えることのできる仕組みを整備していく必要があろう。
一方、②の「職業特殊的能力」については、ホワイトカラー部門を中心にわが国ではその育成の仕組みがそもそも未整備である。
しかし、この「職業特殊的能力」を育成する仕組みをいかに整備できるかが、雇用流動化時代の企業の競争力や個人の働き甲斐・生き甲斐につながる極めて重要なテーマとなる。
なぜならばそれは、端的には特定職業における「プロフエツショナリティー」の実体にはかならず、この能力の強化こそが、まずは企業が新規事業の創造に注力し、事業の選択と集中の実現を通じてグローバルに通用する競争力を確保・向上させていく際のカギを握るからである。
また、個人にとっても、一企業の枠を超えて、特定の職業に対してアイデンティティーを持ち、「プロフエツショナリティー」を磨ことで、社内昇進とは異なる次元で新たな働き甲斐と生き甲斐を見出していくことができるようになる。
この「職業特殊的能力」が上手育成されていくためには、すでに指摘したように、企業がプロフェッショナルを十分に処遇し、その能力支援を行っていくことも必要であるが、一企業の枠を超えて、職種別労働市場、企業横断的な能力認定資格、職業コミュニティー、プロフェッショナルスクール等、社会横断的な能力開発インフラが整備される必要がある。
なぜならば「職業特殊的能力」の育成は、企業の自主性のみに任せておけば、社会全体で十分に行われない恐れがあるためである。
先にも述べたように、そもそも企業が人材育成を行うのは、長期的雇用関係のもとでいずれはその開発した能力が企業の業績向上のために活用されると考えられるからである。
しかし、「職業特殊的能力」とは元来企業の枠を超えるものであり、その能力が高ければ高いほど他社に引き抜かれる可能性が高まる。
それでも企業にとって「職業特殊的能力」=「プロフエツショナリティー」の必要性が高まっているがゆえに、その育成にこれまで以上に注力することになるであろうし、成長実感を追い求め容易に転職する若い世代を定着させるための仕掛けとして、従業員がプロフェッショナルな能力を習得していくことを、企業が積極的にサポートしていくことにもなるのは確かである。
しかしながら、転職が着実に増加する方向にあるなか、有能な「プロフェッショナル」は他社から引き抜けばよいと考える企業が増えていくことも予想され、経済全体としてみれば、「職業特殊的能力」の育成のために十分な投資が行われない可能性が高まっていく。
また、さほど高くないレベルでの職業特殊的能力ならば、企業にとっては派遣労働者をはじめとした非正規労働の活用で十分であり、その場合は非正規労働者が同一職務の同一レベルでの仕事の繰り返しとなるため、彼ら(彼女ら)の能力開発が十分に行われないというリスクが高まる。
以上のような文脈から、「職業特殊的能力」育成のための社会的な能力開発インフラを整備する必要が出てくるわけであるが、ここではその必要性を指摘するにとどめ、具体的な方策については第6章において提示することとしたい。
(本章は、筆者が参加した経済産業省「人材マネジメントに関する研究会」[二〇〇五~〇六年]における議論が参考になっている。
)若年就労問題が警告するもの破綻した日本型キャリア形成本章では、一九九〇年代の日本社会が遭遇した最大の問題のlつである「若年就労問題」について検討する。
この間是については、フリーター、ニート問題として近年議論が高まったが、一方で正社員に就いた若者についても離職率の高まりという見逃せない問題が生じている。
ここでは、これらに共通するファクターとして「キャリアの視界不良化」というキーワードに注目し、その背景に潜む日本社会が持つ危機について考える。
低下する勤労継続意欲「悪い離職」の増加「フリーター」「ニート」をめぐる議論の変遷「フリーター」とは、そもそもは株式会社リクルートの就職情報誌が「フリーなアルバイター」をもじって名付けられたものとされるが、一般に「定職には就かず、パートタイマーやアルバイトといった一時雇用等で生活している若者」のことを指す。
内閣府は「一五~三四歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職の人」(『平成一五年版国民生活自書』)と定義したうえで、その数は一九九〇年の一八三万人から九五年の二四八万人へと増え、さらに二〇〇一年には四一七万人まで増加したとしている。
また、厚生労働省の定義では、一五~三四歳の若者のうち、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし、①雇用者のうち勤め先における呼称がアルバイトまたはパートである者、②完全失業者のうち探している仕事の形態がパート・アルバイトの者、あるいは、③非労働力人口のうち家事も通学も就業内定もしておらずアルバイト・パートの仕事を希望する者、としたうえ(一九九七年まではやや定義が異なる)で、一九九二年の一〇一万人から九七年には一五一万人、二〇〇二年には二〇八万人と、一〇年間で倍増したものとしている。
その後、二〇〇三年に二一七万人まで増加した後、二〇〇五年には二〇一万人に若干ながら減少したとしている。
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